2003年,マサチューセッツ州営宝くじはまさにこの問題に直面した。メガミリオンズでまる一年にわたって当選者が出なかったのだ。運営者側は,キャッシュ・ウィンフォールではこの厄介な状況を避けるために,ジャックポットを制限することに決めた。もし当選者が出ないまま賞金が200万ドルに達したら,ジャックポットは繰り越されるかわりに,数字を3つか4つか5つ的中させたプレイヤーたちに分配される。これがいわゆる「ロールダウン」だ。
宝くじの運営者は抽選の前には毎回,前回の抽選でのチケット売上に基づいてジャックポットの金額を推定して公表した。その推定値が200万ドルに達すると,6つの数字を的中させる人がいなければ,ロールダウンになることがプレイヤーにはわかる。人々はまもなく,ロールダウンのときのほうが賞金を獲得する可能性がはるかに高まることを見抜いた。その結果,そのような回にはいつも抽選前にチケットの売上が急増した。
ハーヴィーはキャッシュ・ウィンフォールを調べていて,このゲームのほうがプレイヤーにとって他の宝くじよりもお金を稼ぎやすいことに気づいた。それどころか,期待利益がプラスになることさえあった。ロールダウンが起こると,2ドルのチケット売上あたり少なくとも2ドル30セントの賞金が支払われることになっていたのだ。
アダム・クチャルスキー 柴田裕之(訳) (2017). 完全無欠の賭け:科学がギャンブルを征服する 草思社 pp. 57-58
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