1907年,マルコフは記憶も取り込まれたランダムな事象についての論文を公表した。そうした事象の一例がカードシャッフルだった。数十年後にソープも気づくのだが,一度シャッフルした後のカードの順序は,直前の順序に依存している。さらに,その記憶は長続きしない。次のシャッフルの結果を予測するために必要なのは,現在の順序だけだ。数回前のシャッフル時のカードの配列に関する情報を加えたところで,まったく意味がない。マルコフの研究にちなんで,この一段階限りの記憶は「マルコフ性」として知られることになった。このランダムな事象が数回繰り返される場合,それは「マルコフ連鎖」と呼ばれる。マルコフ連鎖は,カードシャッフルや,すごろくなどの偶然性が支配するゲームで広く見られる。また,隠された情報を探るときにも役立つ。
アダム・クチャルスキー 柴田裕之(訳) (2017). 完全無欠の賭け:科学がギャンブルを征服する 草思社 pp. 101
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