社会心理学の教えのなかで最も息の長いものの1つは,リード夫人のように,人は自分にとって心地よく世界を見るためなら,どんなことでもするということである。私たちは,脅威をもたらす情報を合理化し,正当化することに長けたスピンドクターなのだ。ダニエル・ギルバートと私は,この能力を「心理的免疫システム」と呼んでいる。私たちは,身体的健康を脅かすものから自分たちを保護する強力な身体的免疫システムをもっているが,それとちょうど同じように,心理的健康を脅かすものから自分たちを保護する強力な心理的免疫システムももっている。心理的健康を維持するということに関しては,私たち1人ひとりが究極のスピンドクターなのである。
西洋文化の中で育ち,相互独立的な自己観を持っている人は,他者に対する自分の優越性をことさら大きく見て,心理的健康の感覚を増そうとしがちだ。他方,東アジアの文化に育ち,人間をもっと相互協調的なものと見る人は,集団成員との共通性を過大に見やすい。すなわち,相互協調的な自己観を持つ文化の中に育った人は,肯定的な自己観を促進する戦術にはそれほど出ないかもしれない。というのも彼らは,社会集団から切り離された自己にあまり重きを置かないからである。それでもなお,心理的健康の感覚を維持するため,やり方は異なるものの,非意識的な情報操作は行われている。何が私たちの気分を良くするかは,文化やパーソナリティ,自尊心のレベルに依存する。しかし,良い気分でいたいという欲求,そしてこの欲求を非意識的思考によって満たす能力は,おそらく普遍的なものである。
ティモシー・ウィルソン 村田光二(監訳) (2005). 自分を知り,自分を変える 適応的無意識の心理学 新曜社 p.52-53
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