市場の深刻な混乱は,きっかけとなる1つの出来事にたどれることがよくある。2013年の場合は,ホワイトハウスに関するでたらめのツイッターの速報が発端だった。ボットは競争相手を出し抜いて情報を利用しようとして,オンラインで配信されるニュースを漁り回っているので,おそらくこのデマを見つけて取引を開始したのだろう。この話には興味深いおまけがついている。翌年,AP通信が企業の収益に関する報道を自動化したのだ。これは,アルゴリズムに各社の報告書を詳しく調べさせ,業績をAP通信の伝統的な文体で200単語程度の文章にまとめさせるというものだった。この変更は,今や金融報道のプロセスから人間がさらに撤退することを意味している。報道機関のオフィスでは,アルゴリズムが報告書を普通の文章に変換するし,証券取引所の立会場ではロボットがそれらの文章を取引の意思決定に変えるのだ。
アダム・クチャルスキー 柴田裕之(訳) (2017). 完全無欠の賭け:科学がギャンブルを征服する 草思社 pp. 179-180
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