mutation(突然変異)という言葉を取り上げてみると,この言葉は,200年以上も前からすでに,生物の外見に現れたあらゆる劇的な変化に対して用いられていた。だが20世紀の初めに,突然変異という用語が,ある時にはメンデル流の遺伝単位に,ある時には生物体(表現型)に用いられたために,変化の因果関係についての果てしない混乱をもたらすことになった。100年後の私たちは,突然変異が遺伝子型を変化させることを知っている。たとえば,私たちの遠い祖先動物の一部に,オプシンという光感受性タンパク質の青写真を変化させた突然変異のように。こうした遺伝子型の変化は表現型の変化を引き起こすことができ,変化した表現型の一部が,私たちが世界を色付きでみることができる能力のようなイノベーション—新奇で有用な形質—となるのである。
アンドレアス・ワグナー 垂水雄二(訳) (2015). 進化の謎を数学で解く 文藝春秋 pp. 23
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