こうした反応の組み合わせは,スフィンゴビウム・クロロフェノリクムに特異的なものだが,反応そのものはそうではない。各反応のそれぞれは,これまでに数千回とまではいわないが,数百回は出現している。そのうち二つは,いくつかの細菌で不必要なアミノ酸のリサイクルを助けており,別の二つは一部の菌類や昆虫がつくりだす有毒分子—たまたまペンタクロロフェノールと類似した分子—を取り除く。目覚まし時計,自転車の空気入れ,塩ビ管からスプリンクラーを組み立てる自動車修理工のように,進化は,スフィンゴビウム・クロロフェノリクムにおいて,他の生物に別々に存在する酵素によって触媒される,いくつかの化学反応の新しい組み合わせをつくりだしたのである。言い換えれば,代謝的なイノベーションは組み合わせによって生じるのだ。
アンドレアス・ワグナー 垂水雄二(訳) (2015). 進化の謎を数学で解く 文藝春秋 pp. 100-101
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