技術革新と生物の新機軸の両方がもつもう一つの共通性は,古いものに新しい命を授けることである。技術革新の歴史は,実際にそうした例で満ちあふれている。スティーヴン・ジョンソンの言葉によれば,ヨハネス・グーテンベルクは,「人々を酔っぱらわせるために設計された機械」——スクリューを回してブドウの果汁を搾る圧搾機——を借用して,「マスコミュニケーションのための機械(印刷機)につくりかえた」のである。電子レンジは,もともとレーダーのために開発された技術——あるレーダー技師がポケットに入れてあったチョコレートが溶けたことから,レーダーの加熱力を発見した——で,食物に熱を加える(最初の商業用製品は「レーダーレンジ」と呼ばれた)。軽量の合成繊維ケプラー[開発したデュポン社の登録商標]はもともと,レーシング・タイヤの鋼の代替として開発されたが,防弾チョッキとヘルメットに取り入れられた。同じ原理は「技術革新」という標号にほとんど値しないような世俗的な考案でさえ働いている。二つの木挽き台の上にドアを置けば大きな机をつくることができる。長靴は,ローテクのドアストッパーに使える。牛乳運搬用の木箱ですばらしい書類整理棚がつくられる,等々である。エジソンはうまいことを言っている。「発明するためには,すぐれた想像力とガラクタの山が必要である」。
アンドレアス・ワグナー 垂水雄二(訳) (2015). 進化の謎を数学で解く 文藝春秋 pp. 267-268
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