2004年1月のことだった。マーク・ザッカーバーグは,いかにも悪夢にありがちなパターンを現実に体験していた。ハーバード大学の最初の試験期,「アウグストゥス時代のローマ」という歴史の授業で教授が指定した本をまったく読んでいなかったのだ。実のところ,授業にも一度も出ていなかった。ザッカーバーグは「フェイスブック」というプログラムの開発で多忙だったのだ。フェイスブックは,学生たちが互いに知り合い,情報を交換するよう支援してくれるプログラムである。そして,試験の数日前になり,ザッカーバーグは彼自身の言葉によれば「どつぼにハマっていた」(just completely screwed)のである。
しかし,彼には21世紀のコンピュータサイエンスを活用したアイデアがあった。まず,ウェブサイトを構築し,授業で使う図を置き,それぞれの図の横に議論を行なうためのスペースを設けた。ひょっとして,他の学生がそのスペースを埋めてくれるかもしれない。結局,24時間もしないうちに級友たちが適切な援助を行なってくれた。こうしてすばらしいノートが作成されたおかげで,ザッカーバーグを含むクラスの誰もがテストを優秀な成績で通過することができた。そして,ザッカーバーグによれば,教授はこれを不正行為とは考えなかった。教授は,学生がこのように独創的な方法で協業したことを高く評価したのだった。
ドン・タプスコット 栗原潔(訳) (2009). デジタルネイティブが世界を変える 翔泳社 p.57
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