労働力の不足は,特に科学と工学の分野において深刻だ。米国商務省の副次長であるジョン・ベイリーは,今日の科学・工学分野では労働者の4人の1人が50歳以上であると述べている。そして,この分野における成長ペースは労働者の供給ペースよりもはるかに速い。知識労働者の需要が高まる一方で供給は縮小している。過去10年間において4年制の工学部学生の数は大きく減少した。また,科学や工学系の学部に進む学生の数も減少している。大学は,既存のベビーブーム世代が抜けた穴を埋めるに十分な工学系新卒者を生み出していない。企業の成長に必要な新卒者を確保するどころの話ではないのだ。
米国内の一部分野における労働力の不足により,企業は海外に人材を求めている。新興経済国の多くにおいてネット世代の数は戦後世代を大きく凌駕している。中国では,ネット世代の人口はベビーブーム世代の人口よりも8千万人多い。インドや南米でも,ネット世代の人口はきわめて多い。たとえば,インドではネット世代の人口はベビーブーム世代のおよそ2倍である。インドでは毎年250万人の大学新卒者が生まれており,そのほとんどが英語を使える。インドの学生の雇用コストは米国の大卒者の12パーセントであり,その平均的労働時間は年間450時間も多い。これは,雇用主である企業にとっては良いニュースだ。世界の新興経済がいまだかつてないレベルの若い労働力を提供してくれ,そのコストは北米や欧州と比べて安価なことが多い。低賃金の国ではおよそ3900万人の若いプロフェッショナルが存在するのに対して,高賃金の国ではその数はおよそ1800万人である。
ドン・タプスコット 栗原潔(訳) (2009). デジタルネイティブが世界を変える 翔泳社 p.231
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