ここで私が提案しているのは,国民が夕方のニュースやウェブサイトで毎晩投票できるという一種の直接民主主義制ではない。それではデジタルの暴徒が押し寄せるのと同じだ。民主主義は,毎晩多数決を繰り返せば実現されるわけではない。ほとんどの人々はあらゆる課題に精通するための時間も,思想背景も,専門知識も持ち合わせていない。政府は合理的意見を必要としているのであって,意見なら何でもよいというわけではない。
私の提案は,国民が,社会問題への新しい解決策について関与し,学び,それを革新するために,意思決定プロセスにアイデアを提供する方法だ。機は熟し切っている。今日,公共部門の政策専門家は問題の定義だけで精一杯になっており,解決策の策定どころではない状態だ。次々と出てくる無数の課題に対応できるような専門的知識を,政府機関内部のみで集めることは不可能だ。政府は一部の有権者と公選議員の間での継続的対話の機会を作り出す必要がある。インターネットにより,ウェブベースで背景情報やオンライン討論やフィードバック機能を提供すれば,ほとんど経費をかけずに国民からのインプットを集めることができる。政府は国民の力を借りて政策課題を設定することができ,そのような課題を継続的に更新していくことができる。このような活動は市民の関心を喚起し,地域や社会全体で実際の取り組みを始める上での触媒となるだろう。
ドン・タプスコット 栗原潔(訳) (2009). デジタルネイティブが世界を変える 翔泳社 p.381
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