現実の世界の飛行機は,映画のワンシーンのようには墜落しない。エンジンは火花を散らして爆発しない。方向舵が離陸の衝撃で突然折れることもなければ,機長がシートにどさりと身を投げ出して,「ああ,神様」と喘ぐこともない。民間のジェット旅客機は,トースターと同じくらい信頼に値する。墜落事故は多くの場合,小さなトラブルと,些細なエラー要因の蓄積の結果なのである。
例えば墜落の典型的な原因は悪天候,しかも過酷である必要はなく,パイロットが通常よりストレスを感じる程度の天気だ。圧倒的に多いのが出発が遅れ,パイロットが焦っているとき。また,墜落事故の52パーセントが,機長が目を覚まして12時間以上経過した後,すなわち機長が疲れ,判断力も鈍っているときに発生している。さらに,墜落事故の44パーセントが機長と副操縦士が初めての顔合わせのとき,つまり,お互いに落ち着かない関係のときに置きている。
そしてエラーが生じる。しかもひとつにとどまらない。典型的な事故の場合,人為的ミスが7つ続く。機長か副操縦士がミスをひとつ犯しても,それだけでは問題ではない。次に,どちらかがミスを重ねる。この時点ではまだ,ふたつのエラーは大きな失敗ではない。だが3つ目が加わり,さらに4つ,5つ,6つ,そして7つめのエラーが積み重なると,大惨事を招く。
さらに言えば,これら7つの過失は,まず知識や飛行技術の問題ではない。パイロットが難しい操縦技術を求められ,それに失敗したわけではないのだ。墜落の原因となるエラーは,いつも必ずチームワークとコミュニケーションに関係がある。機長か副操縦士のどちらかが重要な点に気づくが,もう一方に伝えない。あるいは片方が間違いを犯し,もう片方がそれに気づかない。難しい状況を解決するには,複雑なステップを踏まなければならない。だが何らかの理由で,機長と副操縦士が協力せず,解決のステップが踏めない,などだ。
マルコム・グラッドウェル 勝間和代(訳) (2009). 天才!成功する人々の法則 講談社 pp.206-208.
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