努力のあとは休息でバランスを取るべきだという考えは,もちろん,勉学や仕事に対するアジア人の考え方とは正反対だ。だがそうは言っても,アジア人の世界観を形づくったのは水田である。珠江デルタでは,農業従事者は二期作,ときに三期作を行う。水田はわずかな期間しか休ませない。それどころか,ここが稲作の特異な点だが,灌漑用水がふんだんに栄養分を運ぶため,稲作を行えば行うほど水田は肥沃になる。
だが,欧米ではその反対だ。小麦やとうもろこし畑は数年に一度休ませなければ,土地が痩せてしまう。冬はいつでも土地がか空っぽだ。春の種播きと秋の収穫期に重労働をしたあとは,いつも必ず,夏と冬にのんびりした日々が続く。そして,それこそが,アメリカの教育改革者が若者の知力の育成に当てはめた論理だった。人間は類推によって新たな考えを体系化する。知っていることから知らないことを考え出す。教育改革者が知っていたのは,農業従事者の季節のリズムだった。知力も耕されなければならない。だがやりすぎは禁物であり,疲れさせてはならない。それなら消耗を防ぐ方法は?長い夏休み,それは独特でいかにもアメリカ的な遺産である。そしてその遺産こそが,今日の生徒の学習パターンに重大な影響を与えてきた。
マルコム・グラッドウェル 勝間和代(訳) (2009). 天才!成功する人々の法則 講談社 pp.288-289
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