ギャンブルがうさんくさく見えるのは,偶然によって勝負が決まるからじゃない。そこにイカサマがからんで,おうおうにして一部のひとだけが得をするようになっているからだ。日本の株式市場だって,はっきりいって,これまでずいぶんいかがわしいことが行われてきた。
だから大事なのは,すべての参加者に公正で公平な投資機会が与えられる開かれた市場をつくることだ。そうなれば,株式投資についてのみんなの見方はずいぶん変わるだろう。なんといってもそれは,社会の富を増やし,みんなを幸福にするとてつもないちからを持っているのだから。
ところが金融業界のひとたちは,「投資家教育」とかいう名目で,「株はギャンブルじゃありません」キャンペーンを大々的に展開している。そうすると,この理屈を自己正当化に使うひとが出てくる。
私はギャンブルには手を出さない。
株はギャンブルじゃない。
だから株にはまっている自分はぜんぜん悪くない。
とか。そして困ったことに,真面目なひとほどこの罠から抜け出せなくなってしまう。このままでは,「投資家教育」をすればするほど哀れな犠牲者が増える一方だ。
こうした悲劇をすこしでも減らすために,まずはいちばん大事な原則を覚えておこう。
株式投資はギャンブルである。
でもそれは,たんなる賭け事ではない。素人でも大きな果実を手にすることができる,世界でもっとも魅力的なギャンブルなのだ。
橘 玲 (2006). 臆病者のための株入門 文藝春秋 pp.21-22.
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