株式投資がコイン投げのようなギャンブルだとすると,論理的には,トレーディングで長期にわたって利益を出しつづけることはだれにもできない。これは短期の株式売買すべてについていえることだが,偶然のゲームを一定の回数以上つづけると,かならず手数料のぶんだけ損をしてしまうのだ。
たとえば競馬は,控除率25%というきわめて割の悪いギャンブルである。1万円で馬券を買うと7500円から賭け事が始まるわけで,これだけ手数料率が高いと,戦績や血統の分析でわずかに勝率を高めることができたとしても,とうてい利益を出すまでには至らない。「競馬必勝法」は,この世には存在しないのである。
それよりもっと分の悪いギャンブルが宝くじで,こちらは掛け金の半分以上が日本宝くじ協会の収益になる。当然,宝くじを購入したひとのほぼ全員が,一生,損をしたまま終わる。「宝くじは無知な人間に課せられた第二の税金」といわれる由縁だ。
「そんなこといったって,宝くじを当てて億万長者になったひとがいるじゃないか」との反論があるだろう。これは事実であるが,それでもこの議論の正しさは変わらない。宝くじの当せん確率はきわめて小さく,また一生に購入できる回数も限られているので,どれほど熱心なファンでも統計的に十分な回数を賭けることはできない。もしも一等当せん者が不死の生命を持ち,その後も宝くじを買いつづけたならば,彼は確実に掛け金の半分を失うことになるだろう。「小さなお金で大きな夢がかなう」という倍率のマジックによって,数字の苦手なひとたちを幻惑しているのである。
競馬や宝くじのような“悪質”なギャンブルに比べて,デイトレードははるかに勝率が高い。株式売買手数料はいまや投資金額の0.1〜0.01%まで下がり,株式投資はすべてのゲームのなかでもっとも有利なギャンブルのひとつになった(実際には利益に対して課税されるため,それが追加コストとなって利回りは引き下げられる。ちなみに上場株式の譲渡所得に対する現在の税率は10%)。
橘 玲 (2006). 臆病者のための株入門 文藝春秋 pp.66-68
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