努力の甲斐あって,デイトレーダーとしてコンスタントに年率20%の利益をあげられるようになったとしよう。これはプロから見てもトップ10%に入るくらいの素晴らしい成績である。
あなたの運用資産が1000万円だとすると,20%の利益は200万円になる。1000万円というのは個人投資家の資金としてはけっして少なくはないと思うが,それでも毎日朝9時から午後3時までモニタに張りついて年収200万円。時給換算すればマクドナルドのアルバイト以下である。
この世界一人件費の高い日本で,プロのトレーダーをも出し抜く技術(そうじゃなければ知能でも勘でも超能力でもなんでもいい)を持っていながら,なぜそこらのプータローよりビンボーな暮らしをしなければならないのだろうか。金融機関に就職すれば,あっというまに年収2000万円や3000万円はもらえるかもしれないのに。
デイトレードにはまるのがニートの若者や主婦,リタイアしたサラリーマンだということにはちゃんとした理由がある。彼らははたらく機会を奪われているか,そもそも就職する気がない。したがって,デイトレードがどれだけ流行っても,はたらくひとの数は変わらない。
バックパッカーがデイトレーダーになるのも同じことだ。社会からドロップアウトし,第三世界を放浪するような若者は,これまでポン引きやドラッグの売人になるくらいしか収入を得る道がなかった。しかしトレードの才能があれば,そんなことをしなくても毎日楽しく暮らしていける。これはもちろん素晴らしいことだけど,だからといってふつうのひとはこんなことはしない。だって,バカバカしいから。
橘 玲 (2006). 臆病者のための株入門 文藝春秋 pp.84-86
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