ヴァージニア大学の私の同僚ティム・ウィルソン教授の研究では,研究協力者が,図書館などで生徒に近寄って1ドルコインを与えたが,実験群ではなぜ研究協力者が1ドルコインを配っているのか明らかではない。ところが対照群では,1ドルコインの横にランダムに親切にするというクラブの名前が明記されていた。つまり,実験群ではこの親切な行為の意図が不明であったのに対し,対照群ではこの親切な行為の意図が比較的明らかであった。約5分後別の研究協力者がコインを受け取った学生に歩み寄り,今の気分を尋ねた。そうすると,親切な行為の意図が不明の実験群で意図が明確な対照群より幸福感が高いという,これまた驚くべき結果が出た。つまり,何かいい出来事が起こった時,なぜそれが起こったのかがわかると喜びもそれで終わってしまうが,なぜいい出来事が起こったのかがわからない場合,その出来事が「過去の出来事」として整理されず,心に残るというのである。
大石繁宏 (2009). 幸せを科学する:心理学からわかったこと 新曜社 pp.143-144
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