記憶を一連の順序に並べる領域や,進行中の出来事を一時的に覚えておく「作業記憶」に関連した領域はレム睡眠中には働いていない。だが,ブラウンによると,長期記憶の形成と引きだしにかかわる領域は覚醒時よりも活発に働いているという。これは,レム睡眠が長期記憶の処理に重要な役割を果たすのにうってつけの条件だ。「レム睡眠は,スイッチがオフになった状態で長期記憶を強化したり削除したりといった処置をするためにあるのではないか」と,ブラウンは推測する。「ただし,レム睡眠中に生じた情報はちゃんと処理されない」
長期記憶の処理中枢は活発に働いているのに,現在の体験(つまり夢)を記憶するのに必要な領域はあまり働いていない----レム睡眠中の脳がこうした状態にあるために,私たちは午前8時に食べた朝食のメニューは思い出せても,午前4時に見た夢を思い出せないのだ。しかしブラウンによれば,実際には夢の内容は記憶に刻まれている。だから昼間に前の晩に見た夢と関連のある何かを見たり,感じたりすると,ふっと夢の断片がよみがえる。夢をよく思い出せないのは,記憶の中からうまく引きだせないからである。
アンドレア・ロック 伊藤和子(訳) (2009). 脳は眠らない:夢を生み出す脳のしくみ ランダムハウス講談社 p.92
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