外部からの刺激を遮断した状態で新たな情報を処理するためにレム睡眠が生まれたと,ウィンソンは考えている。実際,レム睡眠パターンがみられる動物の前頭葉は,爬虫類やハリモグラのような原始的な哺乳類と比べて,より優れた知覚・認知能力を発揮できる。解剖学的に見ても,ハリモグラの渦巻き状の前頭葉皮質は脳全体に対する相対的な大きさで言えば,人間も含めた他の哺乳類よりもはるかに大きく,覚醒時に新しい情報を処理する作業が大きな負担になることを物語っている。レム睡眠は,オフライン状態で新たな体験を記憶に書き込むための自然の独創的な発明なのである。レム睡眠が生まれていなかったら,ネコやサルからわれわれ人間まで,多様な哺乳類の高度な認知能力は生まれていなかっただろう。なぜなら,オンライン状態で情報を処理するには,ハリモグラ並みの前頭葉皮質,人間で言えば頭蓋の容量をはみだすほど大きな前頭葉皮質が必要になるからだ。ウィンソンが言うように,人間がハリモグラのような脳を持ったら,「頭が重くなりすぎて,自力では支えられなくなっていた」だろう。
アンドレア・ロック 伊藤和子(訳) (2009). 脳は眠らない:夢を生み出す脳のしくみ ランダムハウス講談社 pp.115-116
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