このようにさまざまな証拠から,人間でも他の動物でも,レム睡眠中に脳の配線工事が行われると,多くの研究者は考えている。レム睡眠中にニューロンが活発に働いているのは,神経回路を確立し,遺伝子に書き込まれた生存のために不可欠な情報,つまり狩りや交尾,その他の重要な行動を実行できるようにするためだろう。レム睡眠にこうした用途があるというアイデアは,多くの動物のデータに支えられた数少ない仮説の1つである。
つまり,私たちが見る夢は,より下等な動物から受け継がれたメカニズムであり,遺伝子に書き込まれた生存のためのプログラムと,日々の体験から得た重要な情報が,レム睡眠中に脳の中で処理され,統合されるということである。夢では,言葉よりも感覚,とくに視覚的なイメージが大きな比重を占める。この点からも,人間の夢のルーツは初期の哺乳類にあると考えられる。「人間の夢は,行動戦略を設定したり,修正したり,参照したりする,乳幼児期から行われているニューロンの活動をのぞき見る窓のようなものだ」と,ウィンソンは述べている。
アンドレア・ロック 伊藤和子(訳) (2009). 脳は眠らない:夢を生み出す脳のしくみ ランダムハウス講談社 pp.117-118
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