ウィンソンによれば,夢は覚えておくものとしてつくられていない。私たちが夢を思い出すのは,本当は見てはいけないオフライン状態の脳をちらっとのぞき見るようなものだ。「われわれが夢を見ることに気づいているのはただの偶然であり,夢の機能とは何ら関係がない」とウィンソンは述べている。人間は言葉をもっているから,夢に出た出来事と覚醒時に起きた出来事の記憶を区別できる私たちは子供の頃に自分にはとてもリアルに感じられる経験が「ただの夢だ」と大人に教えられて,現実と夢を区別するようになる。だが言葉をもたない動物が,夢を覚えていたらどうなるか。むしろ適応の妨げになるだろう。「夢が自然と忘れられるように進化したおかげで,私たちも私たちの祖先も,幻想と現実を混同するというリスクを回避できたのだろう」と,ラバージは言う。「たとえばあなたのネコが,隣家のどう猛な犬が死んで,代わりにネズミが飼われているという夢を見たとする。目が覚めたときに,ネコがその夢を覚えていたら,どうなるか。夢とは知らず,ネコはごちそうがあると思ってフェンスを飛び越える。そこに待ち受けているのは凶暴な犬だ」
アンドレア・ロック 伊藤和子(訳) (2009). 脳は眠らない:夢を生み出す脳のしくみ ランダムハウス講談社 pp.121-122
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