スミスをはじめ多くの研究者たちの着実な研究の積み重ねで,さまざまな睡眠段階での夢と認知プロセスと学習との関係がわかってきた。眠りに落ちてまもなく,私たちは第2段階の浅い眠りに入る。音楽家やスポーツ選手,ダンサーが新しい技術を練習して1日か2日後によく経験するパフォーマンスの向上には,この段階がかかわっているようだ。2002年にハーバード大学のマシュー・ウォーカーらが発表した研究では,運動技能が20%向上するかどうかは,おもに朝目がさめる2時間前の最後の第2段階の眠りにかかっていることがわかった。「新しいスポーツなり楽曲なりを習得するとき,練習効果を最大にするには,少なくとも初日の晩は,起きる前の第2段階の睡眠をとりそこねないよう,たっぷり睡眠をとることです」と,スミスは言う。
第2段階の睡眠に続いて,レム睡眠に先立つより深い睡眠段階,徐波睡眠に入る一晩の睡眠時間の前半では,叙波睡眠が多く,全体の8割を占める。後半では,レム睡眠の割合が大幅に増え,第2段階の睡眠と交互に現れる。叙波睡眠は,歴史の試験に必要な暗記など,意味記憶のからむ学習に重要な役割を果たす。これとは対照的に,夢を多く見るレム睡眠は,新しい行動戦略の学習も含めたハウツーのカテゴリー,手続き学習に不可欠だ。実験では,被験者にそうした課題の訓練を受けさせた直後にレム睡眠が増えることが確認されただけでなく,とりわけ訓練の初日に,レム睡眠を奪うと,パフォーマンスが低下することも立証された。
アンドレア・ロック 伊藤和子(訳) (2009). 脳は眠らない:夢を生み出す脳のしくみ ランダムハウス講談社 pp.152-153
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