60人の健康な成人とうつ病と診断された70人の夢を比較した1998年の調査にもとづいて,カートライトは次のように述べる。ほとんどの場合,その夜の最初のレム睡眠で見る夢がもっとも強くネガティブな感情を帯び,2回目,3回目と回を重ねるごとに,夢は感情的によりポジティブになり,遠い過去までさかのぼった自伝的な記憶の断片が入り交じるようになる。他の研究チームの調査でも,子供の頃の記憶が夢に出てくるのは,寝入ってからかなり時間が経ち,体温がいちばん低くなるときだという結果が出ている。
「恋愛問題でも何でもいいけれど,何か悩みごとをかかえたまま眠る。すると,脳はその情報をとりあげ,同じような感情を伴う記憶のネットワークからそれに合う経験を探して,その上に新しい情報を重ねます。レム睡眠の回が重なるにつれ,夢の筋書きはより複雑になり,今の現実からますますかけ離れた,より古いイメージが入り交じったものになります」と,カートライトは言う。「たとえば上司とそりが合わないという悩みを扱った夢に小学校の1年生のときの教師がひょっこり出てきたりする。眠ってから時間が経つにつれて,夢はしだいに楽しいものになります。最後のレム睡眠までに,あなたの脳が長期記憶の中から解決策を見つければ,つまり,今の感情と似たような感情を抱いたけれど,結果的には物事がうまくいった経験を見つけだせば,朝目がさめたときには気分がよくなっているでしょう」
アンドレア・ロック 伊藤和子(訳) (2009). 脳は眠らない:夢を生み出す脳のしくみ ランダムハウス講談社 p.166
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