ハートマンによれば,夢は感情を視覚的な形式で「なんらかの文脈に置く」役目を果たす。竜巻や大波は圧倒的な恐怖感のメタファーとして,よく出てくるモチーフだ。ハートマンの被験者のうち,火災にあった数人は,当初は火事の夢を見たが,その後大波に襲われたり,ギャングに追われる夢を見るようになったという。
トラウマが徐々に解消していく過程で(夢を見ている間に行われる感情処理が,解消に大きく貢献する),夢は変化していくが,その変化には決まったパターンが見られる。初めのうちは,トラウマをもたらした出来事が鮮明かつドラマティックに再現されるが,その際少なくとも1つ,大きな要素が変えられ,現実にはなかったことが挿入される。その後かなり早い段階で,トラウマを構成する要素とそれと感情的に関連がありそうな他の情報や自伝的記憶を結びつける夢を見はじめる。多くの場合は,実際に受けたトラウマに関連して,無力感や罪の意識など共通の感情を伴う,さまざまなトラウマ体験の夢を見る。他の人が亡くなったり,傷ついたのに,自分だけが助かった場合,罪の意識が現れた夢を必ずと言っていいほど見る。たとえば家が火災にあい,兄が焼死して自分だけが助かったというある男性は,「ほとんど毎晩のように兄に傷つけられるか,事故にあって自分だけが傷つき,兄が無傷で助かる夢を見る」と話している。
アンドレア・ロック 伊藤和子(訳) (2009). 脳は眠らない:夢を生み出す脳のしくみ ランダムハウス講談社 pp.178-179
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