明晰夢はオカルトじみたものと見られがちだが,きちんとした科学的な根拠のある現象であることは疑う余地がない。夢を見ているときに夢の世界にいることを意識するのは可能なのだ。しかも,人によっては,夢の展開を意図的に操作でき,外界に合図を送ったり,眠る前に出された課題を実行することもできる。ラバージは睡眠実験室で被験者が眠る前に課題を出すことにした。明晰夢を見ているときに呼吸のパターンを変えるというものである。この課題を選んだのは,レム睡眠中に自由に動かせるのは眼球を動かす筋肉と呼吸筋だけだからだ。ラバージは3人の被験者に,まず眼球の動きで明晰夢が始まったという合図を出してから,呼吸を早くしたり,ちょっと息を止めるよう指示した。指示された通りに呼吸のパターンを変えることができたケースは全部で9回あった。いずれも脳波計その他のモニター装置のプリントアウトで,レム睡眠中に実際に呼吸パターンが変化したことを客観的に確認できる。
アンドレア・ロック 伊藤和子(訳) (2009). 脳は眠らない:夢を生み出す脳のしくみ ランダムハウス講談社 pp.238-239
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