ラバージらはまた,意識の状態を「覚醒」と「睡眠」の2つに限定すべきではないと考えている。この20年間のさまざまな夢の研究が明らかにしたように,意識の状態は脳の生理的なバランスによって変化する。レム睡眠中に鮮やかな夢を生む意識状態の特徴の多くは,外界からの情報が遮断されることに加えて,脳内でセロトニンとノルエピネフリンのレベルが急に下がり,アセチルコリンが急上昇することによってもたらされる。その状態で,注意を集中する前頭葉の領域がめざめることで,明晰夢が生まれるのだろう。神経伝達物質のバランスのちょっとした変化も関係しているかもしれない。
レム睡眠中はもっともドラマティックな意識の変化をかいま見せてくれるが,そのほかにもさまざまなときに意識の状態が移り変わる。たとえば新聞を読んでいるとき。記事の半分くらいまできて,何を読んでいたか,さっぱりわからないと気づいたら,おそらくあなたの脳の中ではノルエピネフリンとセロトニン・レベルが下がり,アセチルコリンが急増したのだろう。それによって頭がぼんやりし,白昼夢の中にさまようと,ハーバード大学の神経科学者スティックゴールドは説明する。「詰まるところ,これが正常という意識の状態はない。起きているときは,睡眠中より正常なのではない。集中しているときか,ぼんやりしているときより正常なわけでもなければ,冷静に落ち着いているときが,興奮してわれを忘れているときより正常というわけでもない。どういう意識の状態が必要かは環境によって変わる。私たちの体は環境の変化に対応するため,臨機応変に状態を変えなければならないのだ」
アンドレア・ロック 伊藤和子(訳) (2009). 脳は眠らない:夢を生み出す脳のしくみ ランダムハウス講談社 pp.258-259
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