このように,個人の意思,技量,嗜好が友人関係の形成に重要な役割を果たす社会では,その個人主義ゆえに,皮肉にも,友人関係への満足度は自己への満足度,ひいては人生全般への満足度とも相関が高くなる可能性がある。この意外な相関関係は,実際ディーナーとディーナーの研究で報告されている。つまり,友人関係への満足度と人生全般の満足度は,個人主義の傾向の強い国であるほど関係が強いという結果である。個人主義の国では友人に満足すれば友人関係を続けるし,満足しなければ友人と見なされないという個人の視点から友人の取捨選択ができる。対人関係の技量のある人は,友人関係にも満足しているし,それが自尊心にも繋がり,人生全般の満足度も高いという結果に繋がっているように思われる。
日本ではたまたまクラスを一緒にとったからとか,一緒のサークルに在籍していたからというところから友人関係が生まれることが多い。同じサークルに所属していれば,友人に満足しなくても顔をあわせなければならないから,簡単に友人関係から逃げ出せるようなものでもない。つまり,個人主義の国での友人関係と異なり,日本での友人関係では,自分の思いどおりに友人になったり,友人でなくなったりするという自由が利かない。仕方なく付き合っているという関係も多々あるであろう。そこでは,人生全般には満足していても,友人関係にはそれほど満足していないという人も少なからず出てくるはずであり,友人関係への満足度が人生全般への満足度と相関が低くなるのも理解できよう。
大石繁宏 (2009). 幸せを科学する:心理学からわかったこと 新曜社 pp.37-38
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