まず,性格は夫婦でどれくらい似ているのだろうか。オーストラリア人夫婦3,618組のデータによると,夫婦間の神経症傾向の類似性は,相関係数で0.07に過ぎなかった。またアメリカ人の夫婦4,815組でも,相関係数は0.09に過ぎなかった。他の性格特性でもほぼ同様の結果が報告されているが,唯一うつ病に関しては,0.39から0.49という高い相関が報告されている。つまり,夫婦の性格特性は,うつ病については類似性が見られるが,それ以外の特性においてはあまり見られなかった。性格の類似性が望ましい条件として挙げられるが,実際の結婚相手は必ずしも自分と性格的に似かよった人ではないようだ(ただし,価値観や態度での類似性は高い)。
しかし,性格の似たカップルのほうが性格の異なるカップルより結婚生活への満足度は高いのであろうか?先行研究によると,一貫性のある答えは得られていない。たとえば,アイゼンクとウェークフィールドは556組の夫婦からデータを取り,この点を検証してみたが,神経症傾向と非協調性のスコアを統計的にコントロールすると,この相関は消えてしまった。また,外向性における類似性は結婚生活への満足度となんら関係が見られなかった。これに対し,ラッセルとウェルズは,夫婦の外向性における類似性と結婚生活への満足度との相関を見たが,神経症傾向では見られなかった。ただし,性格ではなく,価値観や態度という面では,夫婦の類似性が高ければ高いほど,結婚生活への満足度は高いという結果が出ている。つまり,税金やリサイクルについての考え方は,夫婦で似ていればいるほど夫婦関係はうまくいくが,2人がどれくらいおしゃべりか心配性かという面で似ているかどうかは,夫婦の満足感と無関係なようだ。
面白いのは,実際の類似性が結婚生活への満足度とはっきりした関係を示さないのに対し,推定類似性(どれくらい夫婦がパートナーと自分が似ていると認識しているか)は,一貫して結婚生活への満足度と相関を示していることである。幸せなカップルは,実際は似ていなくても,自分たちが性格的に似ていると認識しているようだ。
大石繁宏 (2009). 幸せを科学する:心理学からわかったこと 新曜社 pp.100-102
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