それでは,プライベートバンクはなんのために存在するのだろうか。そこには,ふたつの理由がある。
ひとつは裕福な個人投資家に,機関投資家並みの多様な金融商品にアクセスする機会を提供することである。個人の証券会社にも富裕層向けの営業部門があるが,そこで扱うのは日本株や国債・社債,投資信託くらいのものだ。それに対してプライベートバンクは,アメリカ,ヨーロッパ,日本,エマージング(新興市場)を問わず,株式や債券,ヘッジファンドまで市場で売っているものならなんでも調達してきてくれる(金融機関によって取扱商品は異なる)。相応の金融資産を持ち,効率的に国際分散投資を行ないたい個人投資家には便利な機能だ。
もうひとつは,法人や信託,投資組合などさまざまな投資主体を利用できることである。個人事務所や会計事務所と提携しているので,電話一本ですべてやってくれる。
取引の匿名性に魅力を感じる顧客もいるだろう。海外のプライベートバンクに口座を開設し,日本市場で株式を売買すれば,真の取引主体は日本側ではわからない。これは,仕手株などの投資には有効な方法だ。
ここであらためて確認しておくと,プライベートバンクを利用したこうした取引は,日本国の法令に照らしてすべて合法である。海外の金融機関で資産を運用することも,海外に法人や投資会社を設立することも,所得の申告など定められた手続きさえ行なっていればなんの問題もない。
橘 玲 (2006). マネーロンダリング入門:国際金融詐欺からテロ資金まで 幻冬舎 pp.99-100
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