日本の税法においては,1年を超えて日本国内に居所を有しないか,事前にそのことが明らかな場合は「非居住者」と見なされる。たとえば,子どもが1年超の契約でアメリカに赴任するなら,日本を出発したその日から日本の非居住者になる。
一方,アメリカの税法では相続(贈与)税は財産を贈った側が支払う。受贈者がアメリカ国内に居住していても,贈与者がアメリカの非居住者で,米国債などの金融資産を相続・贈与した場合は,アメリカ側で納税の必要がない。
おのふたつを組み合わせると,きわめて簡単に贈与税を非課税にできる。プライベートバンクは,受贈者となる資産家の子女にアメリカ国内で勤務する仕事を紹介する(留学は不可)。次いで,贈与すべき財産をドルに換えて米国債を購入し,非居住者(アメリカの居住者)である子女に贈与する。たったこれだけのことで,たとえ何百億円,何千億円の財産であっても贈与税を納める必要はないし,そのうえすべての手続きが合法なので,将来,日本国内に資産を戻しても課税されるおそれはない。スイスのプライベートバンカーが「なぜ日本にはわざわざ相続性を払う人がいるんですか?」と聞いたのは,このことを指している。「日本は相続税率が高い」とずっと批判されてきたが,多くの場合,納税者は支払う必要のない税金を納めてきたのである。
橘 玲 (2006). マネーロンダリング入門:国際金融詐欺からテロ資金まで 幻冬舎 pp.210-211
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