風邪をひいて病院やクリニックに行くと,よく抗生剤(抗生物質,抗菌薬ともいう)が処方されます。ところが,抗生剤は細菌に対して効果があっても,ウイルスには効きません。つまり,風邪の原因に対しては効果がないわけで,だから抗生剤は風邪には効かないのです。
多くの医者はもちろんそのことを知っています。それでも医者が抗生剤を風邪の患者に出すのはなぜでしょうか。
それは「患者さんが欲しがるから」です。
多くの患者さんが「抗生剤は貰えませんか」と言います。「風邪に効く薬はないんですよ」と説明すると不満げな顔をし,「別の病院で貰いますから,いいです」と帰ってしまう人もいます。せっかく体調が悪いのをおしてがんばって病院にやってきて,長い間待って「効く薬はありません」では,がっかりです。せめて抗生剤でも出してもらわなければ苦労した甲斐がない,と思うのも無理のないことかもしれません。
岩田健太郎 (2009). 麻疹が流行する国で新型インフルエンザは防げるのか 亜紀書房 pp.36-37
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