星占いの本からとられた記述は,一見したところ自分をよく表しているようにみえるが,それらはほとんどだれにでもあてはまるものだった。現在では心理学者はこのような性格記述を,すぐれた芸人だったP・T・バーナム(Barnum, P. T.)にちなんで「バーナム文」とよんでいる。彼は「サーカスには万人を喜ばせるちょっとしたものが必要だ」と言った(「カモは後から後からやってくる」ということばでも知られている)。
フォーラーが示したように,人々はバーナム文が自分に一致する程度をひどく過大評価する傾向がある。たとえば,ある研究で,学生たちは性格検査の結果であるとして偽りのバーナム文を与えられて,「ぴったり合っている。すばらしい。もっと聞きたい」,「どれもみんな私にあてはまっている。私にピッタリの面があまりにたくさんあって,何といってよいかわからないくらいだ」,「驚くほど正確で詳しい描写だ」などの熱烈な賛嘆のことばでこたえた。
科学的には価値がないことがわかっているのに,なぜ多くの人々が星占いを信じるのかについて,おそらくバーナム効果が説明を与える。フランスの心理学者ミシェル・ゴークラン(Gauquelin, M.)は,申し込みがありしだい,無料で星占いをするという広告をパリの新聞に出した。彼は申し込んできた読者のすべてに,悪名高い殺人者の星占いを送った。「星占いを受け取った94%の人々は,それが当たっているとして絶賛した」。
バーナム文の性格記述を受け取った人々は,それが自分だけのために書かれたものであると考えるときには,いっそう感心する傾向が強くなる。たとえば,ある研究の被験者は,バーナム文が彼らのために「個人的に」書かれたものであるといわれると,ずっとよく当たっているとみなすようになった。別の研究では,被験者に偽の星占いを与えて,それが当たっている程度を評価するように求めた。被験者の生年月日を知っている星占い師によるものといわれた被験者のほうが,生まれた年と月だけを知っている占い師によるものといわれた被験者よりも,その占いがよく当たっていると判断した。
J.M.ウッド,M.T.ネゾースキ,S.O.リリエンフェルド,H.N.ガーブ 宮崎謙一(訳) (2006). ロールシャッハテストはまちがっている—科学からの異議— 北大路書房 pp.148-149
(Wood, J. M., Nezworski, M. T., Lilienfeld, S. O., & Garb, H. N. (2003). What’s Wrong with the Rorschach?: Science Confronts the Controversial Inkblot Test. New York: John Wiley & Sons.)
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