人々が偏見をもっているとき,その偏見に合う情報が気づかれやすく記憶されやすいことは,それほど不思議なことではない。共和党員は,民主党の政治家の卑劣なごまかしをいつまでも覚えているが,自分が属する党の指導者が犯した罪については部分的な健忘症になってしまうものである。民主党員も自分の立場に合うことはよく記憶するが,そうでないことは忘れやすいという点では同類である。心理学の研究では,これと同じバイアスが繰り返し示されてきた。ある有名な研究では,研究者たちは,大いに問題になった1951年のプリンストンとダートマスのフットボール試合のビデオをプリンストンとダートマスのそれぞれのファンに見せた。プリンストンのファンは,プリンストン側よりもダートマス側の選手のほうが多くの反則をしたといったが,ダートマスのファンはこれとまったく逆のことをいった。
これらの例が示すように,人々は自分の信念を強める情報を探してそれに注意を向け,その一方で自分の信念に合わない情報は無視するか批判する傾向がある。人間のこの一般的なまちがいは「確証バイアス」とよばれ,すでに400年前に,イギリスの法学者・哲学者であり,現代科学の父とよばれることもあるフランシス・ベーコン(Bacon, F.)が述べていたものである。「人間の理解は,いったんある1つの見方をとると,それに一致し,それを支持する他のすべてのことを引き寄せるようになる。別の見方の側により多くの重要な事実がある場合でも,…最初の結論が汚されないようにするために,人はそれらを無視して侮ったり,あるいは何らかの区別をして排除したり拒否したりする」。
J.M.ウッド,M.T.ネゾースキ,S.O.リリエンフェルド,H.N.ガーブ 宮崎謙一(訳) (2006). ロールシャッハテストはまちがっている—科学からの異議— 北大路書房 p.142
(Wood, J. M., Nezworski, M. T., Lilienfeld, S. O., & Garb, H. N. (2003). What’s Wrong with the Rorschach?: Science Confronts the Controversial Inkblot Test. New York: John Wiley & Sons.)
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