皮肉なことに,病気を過大視するロールシャッハテストの傾向は,臨床家がこのテストを重要視することをうながす結果になったかもしれない。ほとんどの人々を病気とみなすテストは,たとえいいかげんな根拠に基づくものであっても,臨床現場では当たることがしばしばあるからである。
たとえば,あるテストが,うつ病で対人関係に問題ありというラベルを患者の75%に勝手に貼るとしてみよう。臨床家がみる患者のほとんどはうつ病か対人関係問題を抱えているので,このような判定結果は,いい加減なものであるにもかかわらず,多くの場合当たっている。このテストは不思議なくらいに当たるようにみえるかもしれない。もちろん,もし臨床家がこのテストを大勢の健康な大人に実施したとすれば(1950年代のロールシャッハ研究家がしたように),このテストによって「正常な」人々のほとんどを不適応と判定してしまうことになるだろう。しかし臨床家が日常の業務で健康な大人を判定することはほとんどない。
J.M.ウッド,M.T.ネゾースキ,S.O.リリエンフェルド,H.N.ガーブ 宮崎謙一(訳) (2006). ロールシャッハテストはまちがっている—科学からの異議— 北大路書房 pp.132-133
(Wood, J. M., Nezworski, M. T., Lilienfeld, S. O., & Garb, H. N. (2003). What’s Wrong with the Rorschach?: Science Confronts the Controversial Inkblot Test. New York: John Wiley & Sons.)
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