シネスの研究,およびそれと同様の研究から,3つの重要なことが明らかになった。第1に,研究の結果,患者についてのもっとも役に立つ情報源は患者の個人情報で,これが心理検査よりもはるかに役に立つものであることがはっきりと示された。したがって,患者を理解したり診断したりしようとするときは,臨床心理学者はつねに十分な面接を行ない,個人情報を読むべきである。一般に,多くの個人データを集めることができるほど,患者をより理解し,正しく診断することができる。このことはごく当然のことのようにみえるだろう。ブルーノ・クロプファーとダグラス・ケリー(Kelly, D. M.)の有名な本が,ロールシャッハテストを用いる高度に熟練した心理学者には個人情報は必要ないと説いていることを思い出さない限りは。
第2に,詳細で信頼できる個人データは,MMPIよりも,患者のパーソナリティ判定や診断に役立つことが多いが,研究の結果では,個人データとMMPIの両方を利用するほうが,個人データだけの場合よりも少しだけよい。すなわちMMPIは,個人情報と面接だけの場合よりも,わずかながら妥当性を向上させるということである。
第3に,もっとも重要なことであるが,心理学者がすでに個人データと面接の情報をもっているときは,ロールシャッハテストを加えても患者のパーソナリティの判定や診断の正確さが向上することはあまりないことが,研究の結果示された。それどころか,(シネスの研究のように)ロールシャッハテストが加わると,心理学者の判定が不正確になってしまうことを見いだした研究もいくつかある。
J.M.ウッド,M.T.ネゾースキ,S.O.リリエンフェルド,H.N.ガーブ 宮崎謙一(訳) (2006). ロールシャッハテストはまちがっている—科学からの異議— 北大路書房 pp.127-128
(Wood, J. M., Nezworski, M. T., Lilienfeld, S. O., & Garb, H. N. (2003). What’s Wrong with the Rorschach?: Science Confronts the Controversial Inkblot Test. New York: John Wiley & Sons.)
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