しかし戦後,臨床心理学者の地位は急速に高まった。ヒルガードは,この新たな状況で臨床心理学者にとって大きな強みとなったのがロールシャッハテストであったと,次のように述べている。
もし心理学者が,微妙な解釈を必要とするロールシャッハテストの熟達者であれば,その心理学者が明らかにする患者のパーソナリティについての秘密に,テーブルを囲む人々はおとなしく耳を傾けた。いまや心理学者は以前には許されていなかった臨床的診断をするようになったからである。患者の反応に基づいて,浮遊する不安や色彩ショックについて心理学者が語ると,テーブルを囲む他の多くのスタッフはその患者の中にみていたことに思いあたって,同意してうなずいた。ロールシャッハテストの正確さに対しては,統計的基準から疑問が出されていたのしても,このような同意は心理学者の自己イメージを大いに高めることになった。
WAISのような知能検査や,MMPIのようなパーソナリティ検査のほうがより強力な科学的支持を得ているかもしれなかったが,これらの平凡そうにみえる検査は,ロールシャッハテストがもつ神秘性に欠けていた。ロールシャッハテストは臨床心理学の新たな権威の象徴となったのである。
J.M.ウッド,M.T.ネゾースキ,S.O.リリエンフェルド,H.N.ガーブ 宮崎謙一(訳) (2006). ロールシャッハテストはまちがっている—科学からの異議— 北大路書房 p.87
(Wood, J. M., Nezworski, M. T., Lilienfeld, S. O., & Garb, H. N. (2003). What’s Wrong with the Rorschach?: Science Confronts the Controversial Inkblot Test. New York: John Wiley & Sons.)
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