ロールシャッハの本,『精神診断学(Psychodiagnostics)』は1921年6月に出版された。これは彼の最初で最後の著書となった。その後の数カ月間,彼はこのテストについての考えをさらに発展させ,チューリヒ精神分析学会で臨床現場でのインク図版の有用性についての講演を行なった。しかしロールシャッハの親しい友人たちを除いて,彼の新しいテストに注意を向ける精神医学者はほとんどおらず,彼の本はわずかに数冊が売れただけだった。この冷淡な反応のために,彼は落胆し,いつになく落ち込むようになった。そして,『精神診断学』が出版されてから9ヵ月後,ロールシャッハは腹部の痛みを訴えて病院に入院したが,翌1922年4月2日,虫垂破裂による腹膜炎の併発で亡くなった。37歳であった。
ロールシャッハがインク図版テストについて書いたものはきわめてわずかしかない。彼が残したのは,図版そのものと,1冊の著書『精神診断学』,死後に出版された精神分析学会での講演だけである。オイゲン・ブロイラーはロールシャッハを「スイス精神医学の一代のホープ」として賞賛したが,早すぎる死のために,彼の仕事が後に大きな影響を与えることはありそうもないと思われた。チューリヒの彼の同時代の人々で,彼が以後80年にわたって,心理学者にもてはやされ,また非難されることにもなる遺産を残したことを予見していた者はほとんどいなかった。
J.M.ウッド,M.T.ネゾースキ,S.O.リリエンフェルド,H.N.ガーブ 宮崎謙一(訳) (2006). ロールシャッハテストはまちがっている—科学からの異議— 北大路書房 p.26
(Wood, J. M., Nezworski, M. T., Lilienfeld, S. O., & Garb, H. N. (2003). What’s Wrong with the Rorschach?: Science Confronts the Controversial Inkblot Test. New York: John Wiley & Sons.)
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