知識を獲得し,維持する方法には4通りあるとチャールズ・サンダース・パースは考えた。固執,権威,先験,科学的手法である。
「固執」は,知識の源としてはいちばん劣っている。反証がいくらあろうと,永遠の真理だからというただそれだけの理由で,正しいと信じるからだ。
「権威」も大差はなく,専門家と認める相手の言葉をそのまま鵜呑みにする。とくに気をつけなければいけないのは,権威ある人間がその立場を振りかざして,自説の正しさを押し付けるようなときである。ただし権威者から学べることも多少は受け入れないと,進歩がないことはパースも認めている。
「先験(ア・プリオリ)」は直観法とも呼ばれており,「なるほどと思う」もしくは「納得できる」考えを受け入れるというものだ。もっとも,ある人が納得できる考えも,ほかの人から見るととうてい受け入れがたいかもしれない。「先験」は主観的な評価であり,直観的な反応なので,つねに正しいわけではない。
「科学的手法」はひとつではない。たとえば天文学者が用いる手法は記述が中心であって,物理学や化学の実験的手法とは性質を異にする。それでも知識獲得のための科学的手法は,経験主義と,程度の差こそあれ論理を基盤にしていることが共通している。
行動科学の分野では,理論を出発点として演繹的に推理していく「トップダウン」方式が研究の主流となっている。科学者はその理論に基づいて,検証が可能な具体的な概念を作り上げる。それが仮説である。次に実験を行うのだが,その結果は仮説を裏付けることもあれば,否定することもある。優れた科学は自己修正が利いて固執しないことが特徴なので,仮説と矛盾する実験結果が出たら,もとの理論は修正するか,放棄しなければならない。こうしたルールが守られているおかげで,経験的に引き出された事実を合理的な手法で結びつけることができるのだ。
スチュアート・A・ヴァイス (1999). 人はなぜ迷信を信じるのか 思いこみの心理学 朝日新聞社 p.304-310より
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