同時代の信頼できる観察結果が1つも手に入らない場合,一般人の許容しうる行為が歴史を通じてどれほど大きく変化してきたかについては,法的な決まりごとに着目することで手がかりをつかむことができる。法律の目的とはつねに,ふつうの人びとから期待される物事の最低限度をはっきり決めることである。たとえば,ヴァイキング時代のアイスランドでは,四行を超える詩を唯一の例外として,他人に関する韻文を——たとえ相手をほめたたえるものであっても——書くことが罪悪だった。14世紀イギリスの農民は,犬を飼うことや息子を学校に通わせることが法律で禁じられていた。また,以下に列挙する事柄は,イギリスで,それぞれ異なる時代に罪とされた。書物を出版すること,血液が体内を循環しているという考えを公言すること,黄金を自宅に保持すること,市場に行く途中で金儲けのための品物を買うこと。そして,17世紀のマサチューセッツでは,ある悪名高い時代における行動規範が集団ヒステリーだった。そして穏健と人情を堂々と表に出している人はみな,一般社会の規範に背いているとされた。
デイヴィッド・ウィークス,ジェイミー・ジェイムズ 忠平美幸(訳) (1998). 変わった人たちの気になる日常 草思社 p.45.
(引用者注:1692年,マサチューセッツ州セイラム村で一連の魔女裁判が繰り広げられ,200名近くの村人が魔女として告発された。そのことを指していると思われる。)
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