学習療法の提唱者は,誤った三段論法に陥っている。それは次のようなものだ。
一段:音読や単純計算で,前頭葉を含む広範な大脳皮質で相対的な血流増加が見られる。
二段:前頭葉機能の低下している,アルツハイマー病の患者さんに,音読や単純計算を課したら前頭葉機能の向上が見られた。
三段:音読や単純計算を繰り返して行えば,前頭葉機能が向上するだろう。
この三段論法の帰結は,前頭葉の血流が増加するような課題を行うことによって,前頭葉機能を向上させることができる,ということになる。
二段目の論法には,音読と単純計算が本当に効果を及ぼしたのか疑義があることはすでに述べた。
三段目の論法の問題点は,喪失した機能を向上させることと,正常に機能している能力をさらに高めることは,同じではない,ということだ。
さらに自明のこととして扱った一段目の論法についても,後でまた触れるが,小学校中学年までの子どもでは,音読をしても前頭葉の血流が増加しないことが分かっているのである。
榊原洋一 (2009). 「脳科学」の壁:脳機能イメージングで何が分かったのか 講談社 pp.118-119
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