PETに比べてfMRIには多くの利点がある。第1に人体にほとんど影響のないものとはいえ,PETでは放射性同位元素でラベルした薬品を注射しなくてはならない。しかしfMRIでは何も注射する必要はない。ガンの転移などの臨床的な検査では,検査の重要性が,わずかとはいえ人体に影響を与える可能性のある放射性同位元素による身体への影響を大きく凌駕するために,倫理的な問題はほとんどない。しかし,健康な人を対象に行う基礎的な脳研究では,わずかな身体への影響でも倫理的な問題になるのである。
2つ目の利点は,その解像度の高さである。PETでは,描出できる最小の脳部位の大きさは5〜10立方ミリメートルであった。しかしfMRIでは約3立方ミリメートルの大きさまで描出できる。ほぼ1ミリメートルの直径があれば検出可能なのである。最初はPETで研究を行っていた世界中の脳科学者が,次第にfMRIを使ってさまざまな研究を行うようになってきたのである。
さらに,fMRIの測定は数秒ほどで可能なために,測定に数分かかるPETに比べてより速い血流変化を測定できるようになった。もちろん,ニューロンの電気的な変化にはミリ秒単位のものもある。こうした速い変化の検出はfMRIでも困難であり,脳磁図などのさらに新しい脳機能画像装置の登場によって可能になるのである。
榊原洋一 (2009). 「脳科学」の壁:脳機能イメージングで何が分かったのか 講談社 pp.69-70
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