心理学という言葉は,明治期に作られた翻訳語である。英語ではPsychologyというが,これをほぼ忠実に漢字におきかえてある。Psychologyという英語はギリシア語由来で,その成り立ちは,心や魂といった意味のプシケー(Psyche)と,言葉や論理を意味するロゴス(Logos)を組み合わせたものである。したがってほぼ「心」と「理」という漢字の組み合わせに近いと言える。『広辞苑』(新村出編)によれば,心理学という日本語はPsychologyやMental Philosophyという英語から西周が作ったとある。西は幕末から明治初期にかけて非常に多くの外国語を翻訳し,当時の日本が西洋文明を摂取する上で大きな役割を果たした人物である。ちなみに,プシケーとはギリシア神話に登場するキャラクターである。昔美しい三姉妹がいて,蝶の羽を持つ末娘のプシケーはとりわけ美しかった。人々はプシケーを崇拝し,美の女神ビーナスに対する信仰を忘れた。ビーナスは激怒し,恋愛の神であるキューピットに命じてプシケーを弓で打たせ,恋の虜にしようとした,云々という神話である。このプシケーという語は,もともと「息」という意味も持つという。
道又 爾 (2009). 心理学入門一歩手前:「心の科学」のパラドックス 勁草書房 p.5
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