このような知識のゆがみは,認知地図だけのことではない。どんな分野でも,人は経験したことをすべてそのまま覚えていることはできない。記憶は欠落し,その欠落を様々な推測で補う。そこに図式化のプロセスが働き,認知地図がゆがむのだ。
もっと大規模な空間でもこうしたゆがみが発生している例を紹介しよう。次の質問の答を考えてほしい。
(1)東京と秋田ではどちらが西にあるか
(2)東京と鳥取では,どちらが北にあるか
答えはいずれも東京である。(1)は秋田を,(2)は鳥取を答えた読者が多いのではないだろうか。このような地理関係の判断間違いの例は数多くある。
たとえば,シアトル(アメリカ)とモントリオール(カナダ)はどちらが北か,パナマ運河の太平洋側の入り口と大西洋側の入り口とどちらが西にあるか。これらの質問はいずれも多くの人の予想とは異なっているのである。
村越 真 (2003). 方向オンチの謎がわかる本 集英社 p.42
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