高齢者は一般に,「何」に関する情報は比較的よく覚えているが,「どこ」「いつ」といった情報を覚えているのが不得意なようである。たとえば,作り話を聞かせて,それを覚えているように要求する実験があった。この実験では話自体を高齢者は比較的よく覚えていた。ところが,その話が男の声で語られたか,女の声で語られたかに関して,彼らの記憶は劣っていた。「どこ」や「いつ」は経験に付随するエピソード記憶の重要な部分であるが,その記憶が劣るのはエピソード記憶の低下と関連があるのかもしれない。
記憶力がなぜ低下するのかという点に関しては様々な仮説があり,どれも一長一短で,決め手に欠けている。生理的な証拠からは,前頭葉が加齢に対して敏感であると言われているが,前頭葉は,抑制,注意など制御に関連している。空間に対する注意の向け方のまずさが,低い空間記憶につながっているのかもしれない。
村越 真 (2003). 方向オンチの謎がわかる本 集英社 p.127
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