方向感覚のよし悪しは感覚の問題ではなく,空間に関する記憶の問題である。一度歩いたルートを覚えていれば,道に迷うこともないし,方向音痴と感じることもない。問題は,歩いたルートすべてを覚えていることができない点だ。
私自身方向感覚はよい方だが,覚えられないルートや目印は少なくない。要は何を覚えるべきかという問題なのだ。方向音痴の人は,目印にならないような特徴,つまり遠くから見えなかったり,あちこちにあって「ここだ」と決められないようなもの,あるいは動くものに注目し,肝心のナビゲーションに必要な目印を覚えていない傾向が強い。
また,方向音痴の人は,せっかく目印を覚えても,それが「どこ」にあったかに注意を払っていないようだ。目印は,それがほかの場所とどういう位置関係にあるかが把握できて初めてルートをたどる目印として機能する。特徴的な目印を見たら,それがルートのどこかを意識する習慣をつけるといいだろう。
注目すべき目印は,曲がり角である。曲がり角にどんなものがあったかに注意を向けてそれを覚える。帰路のことを考えると,曲がり角を曲がった後,その角を逆の方向から来るとどのように見えるかを振り返って確認するとよい。同じ場所を通っても,反対から来れば目印の見え方が異なる。往路の視点から見ないと目印を確認できないのでは,その目印も有効には使えない。曲がり角で振り返ることが,道迷いを防ぐ上で有効なことは,心理学の実験でも確かめられている。
村越 真 (2003). 方向オンチの謎がわかる本 集英社 pp.204-205
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