普通の赤ちゃんは1歳前ぐらいになると,何か新しいものを見つけたときに,お母さんの目をまず見る。お母さんがそれを見ていなければ,手で示し,声を上げてお母さんの注目を引きつけ,お母さんが一緒に見つめていることを確認して,笑ったり喜んだりする。つまりこの行動は,注意と感情とを赤ちゃんとお母さんが共有している姿に他ならない。
自閉症児の場合は,この一緒に見る,一緒に喜ぶといった行動が著しく遅れる。それだけではない。健常な子どもは,すでに乳児期の後半からバイバイの真似をして手を振る。自閉症児も,真似ができるようになると「バイバイ」をするが,手のひらを自分の方に向けて「バイバイ」と手を振るのである。これは「逆転バイバイ」と呼ばれる現象である。
ところがよく考えてみると,大人が赤ちゃんに向って「バイバイ」とするときには,手のひらは赤ちゃんの方に向いている。機械的にそれを真似れば,実は自閉症児の「逆転バイバイ」が正解なのだ!むしろ問題は,なぜ普通の零歳児が,手のひらは自分のほうを向いているのに,相手に手のひらを向けてバイバイができるのかということである。普通の赤ちゃんでは,すでに乳児のうちに,自分の体験と人の体験が重なり合うという前提があるからに他ならない。自閉症児の場合には,この段階ですでに問題があるのである。
杉山登志郎 (2007). 発達障害の子どもたち 講談社 p.73
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