何よりも,子どもが安心できる安全な環境に置かれるのでなくては治療が始まらないが,実はこのもっとも基本的な対応でわが国はすでに失格であることをご存じだろうか。現在,保護をされた被虐待児の約8割が家庭に復帰している。家庭に帰すことが好ましいからなされているのではなく,虐待によって保護される子どもの数が予想以上の伸びを見せるなかで,社会的養育の場はすでに満杯状態にあり,保護をする場所がないから否応なしに家庭に帰しているのである。
わが国は先進国で唯一,被虐待児のケアの場は主として,大人数の児童が一緒に暮らす大舎制の児童養護施設によて担われている。心の傷を抱えた者同士が集まったときには,攻撃的な行動噴出をはじめとするさまざまな問題行動が繰り返され,さらに子ども—子ども間においても,子ども—スッタフ間においても,虐待的な対人関係が繰り返し生じ,子どもの安全の確保自体に大きな困難を抱えている。社会的養育を巡るこのような厳しい状況は,被虐待児へのケアの基本的な問題であると思われる。里親養育の増加が強く望まれるゆえんである。
杉山登志郎 (2007). 発達障害の子どもたち 講談社 pp.165-166
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