では,これまでのコンピュータの使い方と,クラウド・コンピューティングでのコンピュータの使い方は,どこが異なっているのか?それは2つの側面で考えていく必要がある。
まず,ユーザー側のコンピュータの使い方だ。前述したようにコンピュータは80年代末から2000年代前半にかけて,クライアント・サーバシステムによって利用されてきた。サーバと,これに接続するクライアントという形だ。サーバは企業内に設置され,あるいは家庭内でも設置され,各クライアントは,このサーバにアクセスしてデータを共有したり,あるいはサービスを利用したりしていた。
ところがクラウド・コンピューティングでは,サーバはインターネットの先にあり,企業や家庭のどのコンピュータといった明確な指摘はできない。もちろん,インターネットの先にあるコンピュータに接続するのであって,利用法そのものでいえばクライアント・サーバシステムに近い。だが,ユーザはどのサーバに接続するのかを意識する必要はない。雲のなかにあるサーバで提供されている“サービス”を選択しているのである。
このコンピュータの使い方は,ウェブ2.0のときのウェブサービスと同じ,あるいはこれを発展させたものだと思えばいい。クラウド・コンピューティングの本質は,サービスそのものなのである。
もうひとつの側面は,これらのウェブサービスを提供する側のコンピュータの使い方だ。サービスを提供するためには,サーバを設置し,アプリケーションやプログラムを組み込み,これを公開することで,アクセスしてきたユーザーにサービスを提供することができた。このとき利用するサーバは,自社で調達したり,あるいはデータセンターのサーバを利用したりしてきた。
クラウド・コンピューティングでは,この部分もまた“雲”のなかにある。サーバやストレージを提供する企業の膨大な数のコンピュータや,これらを利用して作成された仮想コンピュータのなかにサーバを作成し,このサーバでサービスを提供するのである。
狭義のクラウド・コンピューティングでは,このサービスを提供する側のコンピュータの利用法を指しているが,実際にはサービスを提供する側も,またサービスを利用する側も,インターネットを通じてクラウドにアクセスし,サービスを提供または享受するようになってきており,これらを総称した新しいコンピュータの使い方が,広義のクラウド・コンピューティングなのである。
武井一巳 (2009). 雲のなかの未来:進化するクラウド・サービス NTT出版 pp.23-24
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