科学者でない人々は,バタフライ効果を,カオスという概念を端的に表したものととらえているようだ。しかしバタフライ効果としてよく知られている話は,残念ながら少々誤解を招くものである。風船の中の分子の運動がカオス的だったとしても,なかで特に変わったことは起きないはずだ。あなたは,中で嵐が巻き起こっている風船を見たことがあるだろうか?風船の中の蝶がいくら羽ばたいても,それが影響を及ぼすことはない。カオスだけでは,なぜ蝶が嵐を起こしうるのかを説明できないのだ。確かにカオスは,なぜ小さな原因が未来の詳細(各分子の位置)を変化させるのかを説明することはできる。しかし,なぜ小さな原因が最終的に大激変につながりうるのかを説明するには,何か別のものが必要なのだ。カオスは,単純な予測不可能性についてなら説明できるが,「激変性」について説明することはできない。
マーク・ブキャナン 水谷 淳(訳) (2009). 歴史は「べき乗則」で動く:種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 p.34
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