地球物理学者は1世紀以上にわたって,これと同じような,大地震の直前に起こる特別な状況を示す徴候を探しつづけてきた。大地震の少し前に必ず起こる特定可能な出来事があれば,それを地震の前兆として使えるかもしれない。考え方としては,地震は「自分がパンチを繰り出すことを前もって電報で知らせていて」,我々が必要なのはその電報をいかに読むかを知ることだ,というものである。この理にかなった方法には1つだけ問題点がある。それは,まだ誰も信頼できる前兆を発見できていないことだ。研究者のなかには,大地震の直前に地中を進む奇妙な電流をとらえたり,地下水位の突然の変化に気づいたりした者もいる。あるいは,イヌやウシが奇妙な行動をとるのを見つけたり,首をかしげるような天気の変化を目撃したり,不思議な光を見て驚いたりした者もいる。これらの出来事が起こった可能性は,どれも大きい。しかしこうした現象が,すべての,あるいはほんとすべての大地震の前に起こってくれなければ,信頼できる前兆現象とは言えない。ゲラーの1997年の総説には700以上の論文が引用されており,その多くで何らかの前兆現象が特定されたという主張がなされている。しかしゲラーは残念ながら,その1つたりとも信頼できるものはないと結論づけている。
マーク・ブキャナン 水谷 淳(訳) (2009). 歴史は「べき乗則」で動く:種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 pp.49-50
PR