したがって壊滅的な地震は,事実上まったく理由なしに発生する。そのような地震がなぜ起こるかなら説明できる。地殻が臨界状態に調整されており,大変動の瀬戸際に立っているからだ。しかし,なぜ1811年のニューマドリッドの地震があんなに大きかったのかを説明するには,地震の発生後になって,どの岩石がどの順番で滑ったかという物語の形で語る以外に方法はない。初めに滑った岩石がたまたま,非常に大きな見えざる手に乗っていたということだ。この見えざる手は,断層帯全体にまで届いていたことになる。巨大地震は,どんなときにでも,どんな断層帯ででも起こりうる。コロンビア大学の地震の専門家クリストファー・ショルツは,次のような独創的な言葉を記した。「地震は,起こりはじめたときには,自分がどれほど大きくなっていくか知らない。地震に分からないのなら,我々にも分からないだろう」。
マーク・ブキャナン 水谷 淳(訳) (2009). 歴史は「べき乗則」で動く:種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 早川書房 p.117
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